ペーパー気象予報士のハルです。
気象予報士試験の勉強をするには、できれば高校で習う物理の半分ぐらいの知識はあって、公式の運用などができた方がよいと思います。いわゆる「力学」と「熱力学」の分野です。「自分は文系出身なのですが」という方であっても、別に出身にこだわらずに今から身に付ければいいと思うんですよね。
そんなことを思いつつ何気なく勉強法とかをググっていると、色んな情報が蓄積されているサイトを見つけました。STUDY HACKERさんというサイトです。
物理の最初を見てみた
このサイトは主に大学受験生をターゲットにして、科目別の勉強方法のコツや、大学別入試対策、参考書のレビューなどがたくさん掲載されています。懐かしいなと思いながらあれこれ読ませていただきました。
本題の「物理」の勉強法のまとめは以下のURLからたどることができます。
http://studyhacker.net/students/study-method/physics
単元別に詳しく書かれているようで、これだけの情報をまとめるのはかなり大変だったろうなと思います。参考にしようと思って、一番最初の「運動とエネルギー」について目を通してみました。こちらのURLです。
http://studyhacker.net/students/study-method/science/physics/physics-method-basic-movement-energy
この記事では「運動とエネルギー」を3つの単元、「運動の表し方」「運動の法則」「仕事と力学的エネルギー」に分けて解説しています。すごい力作です。
「理解する」って何だ
ただ、ちょっと気になることがあります。具体的に述べるために、「運動の表し方」のパートを引用させていただきます。
この単元は、力学の基本となる物理量である「速度」「加速度」「変位」の定義とこれらの関係がポイントとなります。
まずは、語句の定義についてです。まずは速度が向きを含む「単位時間当たりの位置の変化」だということ、加速度が向きを含む「単位時間当たりの速度の変化」だということ、またこれらが文字を使ってどのように表されるのかを理解しましょう。併せて「変位」という語句の定義や、変位と移動距離の違いも理解しましょう。
語句の定義をしっかり理解したあとに、これらの関係について理解していきます。まずは「距離=速さ×時間」というすでに知っている関係式を文字で置き換えると「x=vt」となること、これは「等速直線運動」における関係式であること、これがv-tグラフにおいてt軸と平行な直線で表されること、グラフの直線とt軸で囲まれた四角形の面積が距離であることを理解しましょう。
次に、加速度の定義式において、時刻0(t=0)での速度をv0、時刻tでの速度をvとすると v=v0+at となることを理解しましょう。そして、この v=v0+at という式をv-tグラフ上で表すと、切片が v0 、傾きが a のグラフになり、さらにこのグラフの直線とt軸の台形の面積を出せば x=v0t+1/2at2 という変位を求める式が出てくることを理解しましょう。そして、加速度が負の場合や、グラフがt軸を下回る場合に変位や移動距離がどのようになるか、教科書にも詳しく書いてあるので、これらも見ながらしっかりと理解しましょう。
これらの理解が済んだら、自由落下、鉛直投げ上げ、鉛直投げおろしについて、それぞれの運動をしっかりと等加速度運動の公式を使って考えられるように実戦演習していきます。
出典: http://studyhacker.net/students/study-method/science/physics/physics-method-basic-movement-energy
私が気になるのは、やたらと「理解しましょう」と書かれている点です。この短いパート(40字×20行程度です)の中に9回も「理解」という言葉が出てきているのですが、よく読むと「どういう状況になれば理解していると言えるのか」「どうやればその状況になれるのか」ということが書かれていないんですよね。
この記事で「理解しましょう」と書かれていることを抜き出すと、こうなります。
- 「速度」「加速度」という語句および文字での表し方
- 「変位」という語句の定義
- 変位と移動距離の違い
- 「距離=速さ×時間」が「x=vt」と表されること
- これは「等速直線運動」における関係式であること
- これがv-tグラフにおいてt軸と平行な直線で表されること
- グラフの直線とt軸で囲まれた四角形の面積が距離であること。
- 加速度の定義式において、 v=v0+at となること
- これをv-tグラフに表すと切片が v0 、傾きが a のグラフになること
- このグラフの直線とt軸の台形の面積を出せば x=v0t+1/2at2 という変位を求める式が出てくること
- 加速度が負の場合や、グラフがt軸を下回る場合に変位や移動距離がどのようになるか
これらを理解したあとで、「自由落下、鉛直投げ上げ、鉛直投げおろしについて、それぞれの運動をしっかりと等加速度運動の公式を使って考えられるように実戦演習していきます」とあります。
でもどうやれば「理解」できるの・・・?
ホームランを打つ方法
たとえ話になりますが、例えば野球選手が「ホームランを打つにはどうしたらいいんだ」と調べてみたときに
- ストライクゾーンを理解しましょう
- ボール球には手を出さないようにしましょう
- 狙い球の球種を決めましょう
- 狙い球が来たらボールの下を叩きましょう
- 少し角度を付けてボールを打ちましょう
と書かれているような、そんな印象なんですよね。
ストライクゾーンはもちろんルールブックを読めば書いてあるわけです(この記事執筆時は「打者の肩の上部とユニフォームのズボンの上部との中間点に引いた水平のラインを上限とし、ひざ頭の下部のラインを下限とする本塁上の空間」なんだそうです)が、自分(打者)から見てどのような位置にボールが見えたらストライクなのか、ということまでは分かりません。でも本当に知りたいのはそれですよね。「自分からどう見えるボールがストライクなのか」という点。
ボール球に手を出さないというのも、言うのは簡単ですが、すごく速いボール(しかも変化するかもしれないししないかもしれない)がわずか18.44メートルの距離から飛んでくるわけです。「ボールかな」と思ってから振るのをやめるとか、「ストライクだな」と思ってから振り始めるとか、そういう次元ではないはずです。では選球眼のいい打者はどうやってボール球を振らずに済んでいるのか?
まあその辺を教えることができるとすれば、それはコーチの役割なのでしょう。悩める選手が上記の「~しましょう」を読んだからといって、それができるようになるわけではありません。
物理の最初はどう「理解」するのか
私は大学時代の専攻がわりと物理寄りの内容でしたので、世間一般の水準からすればわりと物理を「理解」している方ではないかと思います。
そんな私ですが、例えばSTUDY HACKERさんで挙げられている第一のポイント
「速度」「加速度」という語句および文字での表し方を理解する
ということを他人に教えるのはなかなか難しいなと感じます。
言葉で書くのは簡単です。教科書にも恐らく載っているはずですが、
- 速度=単位時間あたりの変位(変位=位置の変化)
- 加速度=単位時間あたりの速度の変化
という意味です。ですが例えば「位置の変化」ということから状況がイメージできる人とそうでない人がいるはずです。「速度」という言葉は日常的にも使っていますが、日常的な意味と物理に出てくるときの意味の微妙なズレも、人によっては理解の妨げになるでしょう。
加速度も同様です。上記の説明で分かる人もいるでしょうが、中には「加速度が単位時間あたりの速度の変化であることは覚えたが、だから何なの」という印象を持ってしまう人もいるでしょう。
ここを乗り越えるためには、ある程度の具体例を用いながら自分の頭の中に「物理を理解するためのいれもの」を作るような段階が必要だと思うのですが、ここが難しいんですよね。具体例や例題は教科書にも当然載っていますが、それを読んで分かる人と分からない人がいます。分からない人が闇雲に例題を解くとかえって逆効果になることも多いでしょう。野球にたとえると、無茶苦茶なフォームになっていることに気づかずに素振りを繰り返すようなものです。
物理はこの最初のあたりでボタンの掛け違いが起こると、そのままだとずっと物理が分からないままになると思います(感覚的な話ですみません)。そこを乗り越えるためには、おそらく物理をある程度ちゃんと理解できている人とたくさんの会話をしながら「自分の頭の中にある理解の枠組み」と「物理を理解するために必要な枠組み」をすり合わせていく必要があるんだと思います。
より具体的には、物理を理解しており、かつこちらの頭の中身を察知して必要な問いかけや修正を投げかけてくれるような指導者を持つことが一番重要ではないかと思います。そういう指導者がいない場合は本を読むしかありませんが、本は合う・合わないがあって、合わない本をいくら読んでも自分の頭を作り替えることにはつながらないんですよね。合う本に巡り会うまで根気よく本を買いまくるしかないかもしれません。もっとも、指導者にしてもそんなに都合良く巡り会えるとは限りませんが・・・。
なんだか「ちゃんと理解するためにはよい指導者が必要だ」みたいな話になってしまいました。これは各自の努力を否定するものではないし、学習者の責任を全て指導者側の責任にすり替えているわけでもありません。ただ「努力」というのは非常に主観的なもので、例えば「本をたくさん読んだ」とか「毎日問題を解いた」とかいうことも「努力」になってしまいます。ですが私の感覚では、「理解の枠組みが狂っているのに本を読んでも理解できないはずだし、問題を解いても単なる四則演算の練習にしかならない」と思います。その入口をアクティブに訂正できるのは指導者しかいないだろうなと思う、という趣旨です。
こんな本も参考になるかもしれません。